背景
宇奈月温泉(うなづきおんせん)は、豊富な温泉資源を背景に発展した富山県の温泉地です。1920年代に入ると、日本全国で水力発電の需要が高まり、黒部川流域もその開発対象となりました。1930年代初頭、黒部川での水力発電所建設が宇奈月温泉の源泉に影響を及ぼし、温泉の水質が悪化したとされています。
訴訟の経緯
温泉旅館経営者は、温泉水質の悪化による経済的損失を理由に、水力発電所を運営する電力会社に対して損害賠償を求める訴訟を提起しました。彼らは、発電所建設が温泉水の温度低下と量の減少を引き起こし、温泉旅館の営業に重大な影響を与えたと主張しました。
判決内容
昭和10年(1935年)10月5日、大審院は温泉旅館経営者の訴えを認め、電力会社に対して損害賠償責任があるとの判決を下しました。この判決は、開発事業が自然環境や公共の利益に与える損害に対する企業の責任を認めたことに意義があります。また、被害者側が具体的な損害を証明することなく、開発行為と損害発生の因果関係を立証するだけで賠償を勝ち取れるという先例を作りました。
事件の影響
宇奈月温泉事件の判決は、その後の公害訴訟に大きな影響を与えました。この事件は、企業活動による環境への影響に対する社会的な認識を高め、環境保護の法的枠組みの発展に寄与しました。また、企業に対して自然環境を保護し、地域社会と調和した事業活動を行うよう促す契機となりました。
引用・参考文献:大審院昭和10年10月5日判決民集14巻1965頁